NVIDIA DGX-2が支えるAIインテグレーションビジネス
富士ソフト様
システムインテグレーターとAI開発の実績を組み合わせ、「AIインテグレーター」ビジネスを加速する富士ソフト。驚異的な計算能力と使い勝手の良さを併せ持つ「NVIDIA DGX-2」がビジネススピーディに応じたAIシステムの提案・導入を後押しする。
富士ソフトは、2020年に設立50周年を迎える老舗のシステムインテグレーター。 高い技術力と提案力を武器に、幅広いソリューションやテクノロジーの開発と販売、プロダクト・サービス、アウトソーシングを手掛けている。近年注目を集める「人工知能(AI)」については、10年以上前から取り組みを始めており、市街地で移動するロボットの自律走行技術を競い合う「つくばチャレンジ」での AGV(Automatic Guided Vehicle: 無人搬送機)や自社開発のコミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」に AIを適用するなど、産官学連携で研究・開発を進めてきた。富士ソフトとしては、これらで培ってきた AI に関するノウハウと本業であるシステムインテグレーターのノウハウを組み合わせることで、AIを開発するだけでなく顧客に最適な AI システムも導入していく「AI インテグレーター」というポジションを確立し、AIビジネスを開拓している。
ビジネスにはスピードが重要 しかしAIでは課題も
AIインテグレーターとしての事業は、2018 年初頭からスタートした。「AIコンサル部門」「AIインテグレーション部門」「プロダクトサービス部門」の3つを柱とし、さまざまな AI 技術やサービスを駆使することで、顧客に必要な AI のシステムやソリューションなどの構築を支援する。AI の開発はもちろん、システム構築の上流工程にあたる要件定義から下流工程の保守サービスに至るまで、AI にかかわるすべてに幅広く取り組んでいく方針だ。
事業を進めるためのポイントとして、富士ソフトイノベーション統括部 戦略推進部 部長の三塚 正文氏は「クラウドAIプラットフォーム」「AI オープンプラットフォーム」「AI ベンチャーサービス 」「R&D」の 4つを挙げる。例えば、クラウドAIプラットフォームにはGoogle やAWS、Microsoftなどがあり、AI オープンプラットフォームには TensorFlow やChainer やPyTorchなどがあるほか、富士ソフトは将棋のAIで有名な「HEROZ」や感情を AI 化する「SENSY」などのAI ベンチャーサービスと連携している。このような状況にあって三塚氏は、「自社ですべてを担うのではなく、顧客のニーズやビジネススピードにあわせてこれらを柔軟に取り入れ、最適な形で顧客に提案していく」と説明する。
富士ソフトでは、基本的に「顧客のビジネススピードを優先することが、大きな付加価値の一つ」と考えている。また、顧客にとっては市場にサービスを投入する絶好のタイミングを逃せばビジネス自体が成り立たなくなるケースもあるだけに、そういった背景も踏まえると「ビジネススピードはもっとも重視される」というスタンスだ。しかし、AI の開発において、とくにディープラーニングでは「そのスピード感を出すことが簡単ではない」(三塚氏)のである。
AI の開発工程では「仮説立案」→「データ収集」→「データ読み込み」→「データ成型」→「AIモデル実装」→「パラメータ調整」→「学習の実行」→「学習精度検証」という手順を踏むことで、最終的に顧客に最適なAIを開発していく。ただし、実際に顧客のシステムにAIを実装するまでには、当然のように何度も手戻りが発生することになる。なかでも「学習の実行」が一番のボトルネックとなっており、計算量が増えれば増えるほど待ち時間が発生するため、「非常に効率が悪い状態に陥ってしまう」という課題があった。
また、ディープラーニングは「データの中から特徴を見つけ出す」という特質上、多くのデータを取得して学習させる必要があるほか、「ネットワークの階層が深くなればなるほど、学習のための計算量は増えていく」という性質もある。そのため、サイズの大きな画像や大量のデータを扱う場合には、従来のCPUリソースだと終了までに1週間、ときには1ヵ月以上かかることもあることから、「仮説の検証やモデルの選定だけでも多くの時間が費やされてしまい、顧客のビジネスに影響が出てしまうケースもあった」(三塚氏)。
既存の課題を解決する驚異的な性能と使いやすさ
この状況を打破すべく、富士ソフトはまず 2018 年 春にGPU「NVIDIA Tesla P100」を4枚搭載したAIワークステーションを導入した。すると、製品の異常を予測する開発事例においては、市販の一般的な PC で720時間かかった画像学習が、AIワークステーションを利用することで72 時間にまで短縮することができた。しかし、この目覚ましい成果でも、富士ソフトが満足することはなかった。求められる成果が一層大きくなり、さらなるスピードアップへの期待感が高まっていたのだ。「AIワークステーションの処理能力の限界値が見え始めたとともに、上位機種での可能性を模索する時期が意外に早く訪れることになったのは嬉しい誤算でした」と三塚氏は振り返る。
「自社にとっても顧客にとっても手がかからず、しかもAIワークステーション以上のパフォーマンスを得られる製品はないか」と思案するなか、三塚氏の目に留まったのがディープラーニング専用スーパーアプライアンスコンピュータ「NVIDIA DGX-2」だった。DGX-2は、GPUの完全相互接続を実現する「NVIDIA NVSwitch」を採用し、32GBのメモリーを内蔵した最新アーキテクチャVolta世代のGPU「Tesla V100」を16 基搭載。NVSwitchを利用した2.4TB/sの超高速な相互接続により、2ペタFLOPSという圧巻の演算性能を実現する。この驚異的な計算能力とともに使い勝手の良さにも注目し、富士ソフトは2019年4月、AIワークステーションの導入からわずか1年足らずでDGX-2の導入に踏み切った。
高性能が生み出す時間短縮 サポート体制もメリット
DGX-2の性能は想像以上で、骨折を予測する医療 AIプロジェクトの開発事例では画像学習がわずか 6 時間で完了。先ほどのAIワークステーションでは18 時間かかる試算だ。しかも、この際に利用したGPUはAIワークステーションと同じ4枚だったことから「16枚のGPUをすべて利用すれば、さらなる時間短 縮が望める」と三塚氏は自信をのぞかせる。実際、DGX-2のおかげでプロジェクトはスピーディに進み、もともと3ヵ月で設定していた期間を1ヶ月で終えて次のステップに進むことが可能になった。共同研究を進めている教授からも「こんなに早く結果が出るとは思わなかった」という驚きと好評の声が挙がっているそうだ。
そのほか、1週間かかっていた AI の試験も1~2日で終わるようになり、DGX-2によって学習の時間を最短にすることで、本来注力しなければならない仮説検証やAIモデルの選定などに注力できるようになった。顧客への提案スピードが上がるとともに、顧客のビジネススピードにあわ せたシステム提供にも役立っている」(三塚氏)。
また今回の導入で三塚氏は、DGX-2の純粋な性能だけでなく、 サポート体制にもメリットを感じている。そもそも、DGX-2の実際の運用は富士ソフトが担うため、何か問題が起きれば、まずは富士ソフトが対応することになる。もちろん、長年の経験やノウハウからさまざまな問題に対処できるスキルを持つ富士ソフトだが、発売からまだ1年にも満たないDGX-2に対しては、選択した対処法が「必ずしも正解だとは限らない」(三塚氏)。そんなとき、NVIDIAに直接問い合わせをして速やかにフォローしてもらえるメリットは非常に大きく、三塚氏は「問い合わせに対するレスポンスの早さや回答の質も含めて、サポート体制には有益性を感じている」と笑みをこぼす。
AIの分野でトップランナーを目指す
グループ内で1万人の技術者を抱え、高い技術力によって最先端技術の実現を目指す富士ソフト。今後の柱になると見据えているのは「AI」「IoT」「Security」「Cloud Computing」「Robot」「Mobile」「Auto-Motive」の7つで、 それぞれの頭文字を取って「AIS-CRM(アイスクリーム)」と呼ばれる技術戦略だ。そういったなかで、今後の取り組みの1つとして考えているのが「エッジAIへの注力」だ。すでに、DGX-2とエッジAIデバイス「NVIDIA Jetson Nano」を組み合わせた取り組みがスタートしている。
Jetson Nano は、70×45mmというコンパクトサイズのボードに、128基のNVIDIA CUDAコアを実装したNVIDIA Maxwellアーキテクチャの GPUやクアッドコアARM「Cortex-A57」などを搭載。このJetson Nanoをさまざまなプロダクトやソリューションに適用することで、「言語処 理や画像処理などの予測機能をGPU ベースに変更し、エッジ側で実現することによりさらなる付加価値を実現できると考える」(三塚氏)ことが可能になる。富士ソフトではエッジAIの適用分野として製造業や介護現場での実証検証を行なっており、Jetson Nanoを採用している。
AIの市場は今後さらに拡 大し、AIやロボティクスが当たり前の世の中になっていくだろう。そうなれば、GPUやその関連デバイスがより安価になり「GPUを使った AI 開発も当たり前の世界になる」(三塚氏)と予想される。そういった世の中が到来した暁に、富士ソフトとしては「AI 分野でのトップランナーでありたい」と考えており、三塚氏は「DGX-2はその先行投資である」と力説する。AIの学習時間に手間取ってトップランナーになれるきっかけを失うよりは、いち早く導入して「そのチャンスをつかみ取りたい」という考えだ。そのためにも、NVIDIAやNVIDIAの販売パートナーであるジーデップ・アドバンスに対しては、AIインテグレーションのご支援をいただき、「さまざまなデバイスやノウハウを共有しながら、一緒にビジネスを進めていきたい」と期待を寄せた。
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富士ソフト様の使用モデル
DGX-2
最新アーキテクチャVolta世代のGPU「Tesla V100」を16基搭載するAIシステム。NVIDIAのバス規格「NVLink」を拡張した革新的なテクノロジー「NVSwitch」を実装し、16基のGPUを同時に2.4TB/sの超高速で相互接続すること により、2PFLOPSの演算性能を実現する。